紛争の内容
ご依頼者の方は、日本に在留する外国人であり、オーバーステイ(不法残留)と覚醒剤使用という二つの被疑事実で逮捕・勾留された刑事事件です。オーバーステイについては在留カードの記録からも明らかであり、ご依頼者の方自身も認めていたことから、この点については認め事件として進めることになりました。一方、覚醒剤の使用については、ご依頼者の方には使用した記憶が全くないというご主張でした。しかしながら、尿検査において覚醒剤の陽性反応が出ていたことから、客観的な証拠の面では非常に厳しい状況に置かれていました。
交渉・調停・訴訟等の経過
弁護士はまず、認め事件であるオーバーステイについて、帰国後の生活環境の整備に取り組みました。祖国にいる親戚と通訳を介してやり取りを重ね、帰国後の受け入れ体制や生活環境を具体的に確認・調整しました。
覚醒剤使用については、尿検査で陽性反応が出ているという客観的な事実がある以上、弁護活動は極めて困難な状況でした。しかし、ご依頼者の方が使用した記憶がないという主張を真摯に受け止め、その主張が成り立ちうる事情がないかを徹底的に調査しました。その結果、ご依頼者の方と同居していたルームシェアの相手方が覚醒剤使用で直前に逮捕されていたこと、またその人物が覚醒剤を染み込ませたたばこをご依頼者の方に渡していた可能性があることが判明しました。
弁護士はこれらの事情を精査し、ご依頼者の方が覚醒剤と知らずに摂取させられた可能性、すなわち覚醒剤使用についての主観的な故意が欠けるという主張を丁寧に組み立て、詳細な意見書を作成して検察官に提出しました。
本事例の結末
検察官による慎重な検討の結果、覚醒剤使用については嫌疑不十分として不起訴処分となりました。尿検査で陽性反応が出ているという非常に不利な状況の中で、故意の欠如という主張が認められた事例です。オーバーステイについては認め事件として手続きが進み、ご依頼者の方は帰国することとなりましたが、覚醒剤使用という重大な犯罪歴がつくという最悪の事態を回避することができました。
本事例に学ぶこと
尿検査で陽性反応が出ているという状況は、覚醒剤事件において最も不利な証拠の一つです。そのような局面では、「もう認めるしかない」と感じてしまうことも無理はないかもしれません。しかし、犯罪が成立するためには客観的な事実だけでなく、主観的な故意の存在が必要です。本事例では、ご依頼者の方に使用の記憶がないというご主張を丁寧に掘り下げた結果、故意が欠ける可能性を示す具体的な事情が浮かび上がりました。どれほど苦しい状況であっても、やっていないのであれば認めるべきではなく、細い道であってもこちらの主張が認められる可能性を最後まで追求することが重要であることを、本事例はよく示しています。
弁護活動において事実の調査がいかに重要であるかも、本事例から学ぶことができます。ルームシェアの相手方が覚醒剤使用で逮捕されていたという事実や、覚醒剤を染み込ませたたばこを渡されていた可能性という事情は、丁寧な事情聴取と調査によって初めて明らかになったものです。弁護士がご依頼者の方の話を真摯に受け止め、その主張を裏付ける事情を粘り強く探したからこそ、意見書として説得力ある形にまとめることができました。刑事弁護においては、一見不可能に思える状況でも、事実を丁寧に積み上げることで結果が変わることがあります。
また、一つの事件に複数の被疑事実がある場合、それぞれの事実について個別に方針を検討することが重要です。本事例では、オーバーステイについては認め事件として迅速に対応しつつ、覚醒剤使用については争うという、事実ごとに異なる戦略を取りました。すべてをまとめて同じ方針で処理しようとすると、それぞれの事実に最適な対応ができなくなることがあります。複数の被疑事実を抱える事件こそ、弁護士が早期に介入し、事実ごとに適切な見通しと方針を立てることが不可欠です。
さらに、外国人が関係する刑事事件では、言語の壁や文化的背景の違いから、ご依頼者の方が自らの状況を正確に伝えられないまま手続きが進んでしまうリスクがあります。本事例でも、通訳を介した丁寧なコミュニケーションがなければ、故意の欠如を示す重要な事情を把握することはできなかったかもしれません。外国人事件においては、言語・文化の壁を乗り越えてご依頼者の方の話をしっかりと聞き取る体制を整えることが、弁護活動の質を左右する重要な要素です。
弁護士 遠藤 吏恭







