紛争の内容
ご依頼者の方は、飲食店内において酔った勢いで同店の客に暴行を加えて骨折という重大な傷害を負わせたうえ、その荷物を持ち去ったとして、強盗致傷の被疑事実で逮捕・勾留された刑事事件です。強盗致傷罪は裁判員裁判の対象事件であり、法定刑は無期懲役または6年以上の有期懲役という極めて重い罪です。被害者が骨折という重大な傷害を負っていることもあり、当初から非常に厳しい見通しが立てられていました。

交渉・調停・訴訟等の経過
弁護士は受任後、まず事件の事実関係を徹底的に精査しました。本件において最も重要な法律上の争点は、「暴行と財物の持ち去りが強盗致傷罪を構成するか否か」という点でした。

強盗罪が成立するためには、財物を奪うという目的をもって暴行・脅迫が行われたこと、すなわち「財物奪取に向けた暴行」であることが必要です。しかし本件では、暴行が行われてからしばらく時間が経過した後に荷物が持ち去られていました。この事実関係を丁寧に分析した結果、暴行の時点において財物を奪取する意図があったとは言い難く、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と窃盗罪がそれぞれ成立するにとどまるという主張が成り立つと判断しました。

この主張を論理的かつ詳細にまとめた意見書を作成し、検察官に提出しました。その結果、起訴の段階で強盗致傷から傷害および窃盗への認定落ちを実現することができました。

起訴後の公判段階においては、被害者に骨折という重傷を負わせていることから、実刑判決の可能性が依然として高い状況でした。そこで、被害弁償・示談交渉を積極的に進めるとともに、ご家族による監督体制の整備など、情状立証に向けた活動を丁寧に積み上げました。残念ながら金銭的な折り合いがつかず示談の成立には至りませんでしたが、ご依頼者の方が示談を真摯に求め続けたという事実や、ご家族が監督者として責任をもってご依頼者の方を支えることを公判の場で明確に示しました。

本事例の結末
公判の結果、執行猶予付き判決を獲得することができました。被害者に骨折という重大な傷害を負わせ、示談も成立しなかったという極めて不利な状況の中で、罪名の認定落ちという弁護活動の成果と、積極的な情状立証の積み重ねが、執行猶予という結果につながった事例です。

本事例に学ぶこと
刑事事件において、被疑事実として掲げられた罪名をそのまま受け入れることが最善とは限りません。本事例のように、事実関係を丁寧に分析することで、成立する罪名そのものを争う余地が生まれることがあります。強盗致傷罪と傷害罪・窃盗罪では、法定刑の幅が劇的に異なります。強盗致傷罪の法定刑は最低でも懲役6年であり、執行猶予が付く余地はほとんどありません。一方、傷害罪と窃盗罪への認定落ちが実現すれば、刑の幅が大きく広がり、情状によっては執行猶予が視野に入ってきます。罪名の争いは、弁護活動における最初かつ最も重要な検討事項の一つです。

暴行と財物の持ち去りの間に時間的な間隔があったという事実は、一見すると些細な事情に思えるかもしれません。しかし、強盗罪が成立するためには「財物を奪う意図をもって暴行を加えたこと」が必要であり、この時間的間隔は「暴行の時点で財物奪取の意図があったか否か」という判断に直結する重要な事情です。弁護士が事実関係を細部まで丁寧に確認し、法律的な意味を読み解いたからこそ、この争点を的確に捉えることができました。事実の中に潜む法律上の意味を見抜く力が、弁護活動の質を左右することを、本事例はよく示しています。

また、示談が成立しなかった場合でも、示談に向けた真摯な努力の姿勢は、量刑判断において一定の評価を受けることがあります。本事例では、金銭的な折り合いがつかず最終的に示談が成立しませんでしたが、ご依頼者の方が被害弁償を求め続けたという事実、およびご家族が責任をもって監督することを明確にした事情が、裁判所に積極的に伝わった結果として執行猶予につながりました。示談の成立のみを目標とするのではなく、示談に向けた誠実な取り組みの過程そのものを丁寧に立証することが、弁護活動において非常に重要な意味を持ちます。

刑事事件は、一つひとつの事実が積み重なって結果を形成します。罪名の認定落ちという法律的な勝ち筋の追求と、情状立証という量刑面での働きかけを、同時並行で丁寧に進めることが求められます。本事例は、事実の精査・法律的な主張の組み立て・情状立証の積み上げという弁護活動の三つの柱が、それぞれ機能することで最善の結果を引き出した好例といえます。重大事件であればあるほど、早期に弁護士に相談し、多角的な弁護活動を開始することが、結果を大きく左右することを改めてお伝えしたいと思います。

弁護士 遠藤 吏恭