紛争の内容
Aさんは、交際相手であるBさんと自宅で口論になりました。感情が高ぶったAさんは、Bさんに怪我を負わせてしまい、傷害罪を理由に逮捕されてしまいました。
Aさんの職場からの相談をきっかけに、当方は、Aさんの留置施設に接見しに行き事情を聞いた上で、刑事弁護の受任に至りました。
交渉・調停・訴訟等の経過
本件において、早期釈放と前科をつけない(不起訴)ために、以下の2つのステップで交渉を進めました。
- 身元引受人の確保と環境整備:まず、Aさんの親・Aさんの職場の上司に身元引受人になってもらい、検察官に対して「証拠隠滅や逃亡の恐れがない」ことを法的に主張し、不必要な勾留を解くよう働きかけました。
- 被害者との誠実な示談交渉:刑事事件において、被害者の心情は最も重要です。当方はBさんに連絡を取り、Aさんの深い反省の意を伝達しました。最初は拒絶反応もありましたが、粘り強く対話を重ね、慰謝料を含む示談金の提示を行いました。その結果、示談を成立させることができました。
本事例の結末
成立した示談書・意見書を速やかに裁判所・検察官に送付した結果、以下の結果を勝ち取ることができました。
- 早期釈放:勾留期間が満了する前に釈放され、Aさんは職場への復帰が可能となりました。
- 不起訴処分:被害者との示談が成立し、処罰感情がなくなったことが決定打となり、検察官は起訴猶予(不起訴)を選択しました。Aさんに前科はつかず、事件は法的に完全に終結しました
本事例に学ぶこと
本件のような恋人間での偶発的な傷害事件において、最善の解決(不起訴・社会復帰)を得るために不可欠な要素は以下の3点に集約されます。
1 刑事手続きにおける「初動の速さ」がすべてを左右する
逮捕から起訴か不起訴かの最終判断が下されるまでは、最長でもわずか23日間しかありません。この短い期間に、職場への影響を最小限に抑えつつ、被害者との交渉を終える必要があります。本事例のように、逮捕直後から弁護人が介入し、速やかに「身元引受」の環境を整えることが、勾留期間の短縮と解雇の回避につながる最大の鍵となります。
2 「客観的な第三者」による介入の不可欠性
恋人間や親族間の事件では、当事者同士の感情的なもつれが激しく、直接交渉しようとするとかえって事態が悪化したり、脅迫と捉えられたりするリスクがあります。弁護士という法的な専門知識を持った「客観的な第三者」が間に入ることで、被害者の心情を丁寧に汲み取りながら、法的に有効な示談交渉を進めることが可能になります。
3「示談と宥恕(ゆうじょ)」が持つ法的な重み
日本の刑事司法において、被害者が加害者を許し、処罰を望まないという意思表示(宥恕)を伴う示談が成立している事実は、検察官の判断に極めて強い影響を与えます。単なる金銭的な補償(治療費の支払い等)にとどまらず、誠実な謝罪を通じて「被害者の許し」を得ることが、前科を回避し、再出発するための唯一にして最大の近道と言えます。
弁護士 安田 伸一朗







