紛争の内容
ご依頼者の方は、電車内において見知らぬ方に対して不同意わいせつ行為(いわゆる痴漢)を行い、さらにその際に被害者の財布を窃取したとして逮捕・起訴された刑事事件です。窃盗の被害額も少額ではなく、不同意わいせつと窃盗という複数の犯罪事実が重なる事案でした。また、ご依頼者の方には少年時代の非行歴もあったことから、捜査段階から非常に厳しい見通しが立てられていました。

交渉・調停・訴訟等の経過
弁護士は受任後、直ちに被害者側との示談交渉に着手しました。不同意わいせつ事件においては、被害者が見知らぬ方であることも多く、示談交渉自体が成立しないケースも珍しくありません。本件においても交渉は容易ではありませんでしたが、誠実な謝罪と十分な示談金の提示を重ね、粘り強く交渉を続けました。その結果、公判請求(起訴)がなされる前の段階で示談を成立させることができました。起訴後は、示談成立の事実を裁判所および検察官に示しつつ、保釈請求を行いました。

本事例の結末
示談が起訴前に成立していたことが功を奏し、起訴後即日での保釈が認められました。ご依頼者の方は身体拘束から解放され、公判期日まで社会内での生活を続けることができました。その後の公判においても、示談成立という被害回復の事実が重く評価され、少年時代の非行歴があったにもかかわらず、最終的に執行猶予付き判決を獲得することができました。

本事例に学ぶこと
刑事事件において、示談交渉のタイミングと速度は判決内容に直結する極めて重要な要素です。本事例では、公判請求前という早い段階で示談を成立させることができたことが、起訴後即日保釈という結果につながりました。示談の成立が遅れ、起訴後にずれ込んでいた場合には、保釈が認められるまでに相当の時間を要し、社会内での生活維持が困難になっていた可能性もあります。弁護士への早期依頼と、迅速な示談交渉の開始がいかに重要であるかを、本事例はよく示しています。

また、不同意わいせつ事件は被害者の処罰感情が強く、示談交渉が難航するケースが多い類型です。加えて本件では窃盗という財産犯も競合しており、被疑事実の重さという観点からも非常に困難な事案でした。それでも示談が実現できた背景には、弁護士が窓口となることで被害者側に対して誠意ある対応を継続できたことがあります。ご依頼者の方が直接交渉に当たるよりも、弁護士が代理人として関与することで、被害者側も安心して交渉のテーブルにつきやすくなるという側面があります。

さらに、非行歴という不利な事情があったとしても、それをもって直ちに実刑が確定するわけではありません。被害回復の有無、反省の深さ、更生の可能性など、量刑に影響するさまざまな事情を丁寧に積み上げていくことで、裁判所の判断を執行猶予の方向に向けることは十分に可能です。本事例はその好例といえます。

刑事事件では、逮捕・起訴という事態に直面すると、ご依頼者の方もそのご家族も大きな不安と混乱の中に置かれます。しかし、そのような局面においても早期に弁護士に相談し、適切な弁護活動を開始することが、最終的な結果を大きく左右します。本事例が、刑事弁護における早期対応と粘り強い示談交渉の重要性を示す一例として、お役に立てれば幸いです。

弁護士 遠藤 吏恭