紛争の内容
ご依頼者の方は、会社員として勤務されている男性で、飲酒後の帰宅途中、電車内で女性の身体に触れたとして、不同意わいせつの疑いで警察の取調べを受けることになりました。ご依頼者の方は事実関係については概ね認めており、深く反省されていましたが、逮捕・勾留されるのではないか、起訴されて前科がついてしまうのではないか、勤務先に知られて職を失うのではないかという強い不安を抱えておられました。
不同意わいせつは法定刑に罰金がなく、起訴されれば正式裁判となり、有罪となれば前科がつくことになります。ご依頼者の方には家族があり、社会生活への影響を最小限に抑えるためには、早期に被害者の方との示談を成立させ、不起訴処分を目指すことが重要な状況でした。

交渉・調停・訴訟等の経過
ご依頼を受け、まず警察との連絡を密にし、ご依頼者の方が捜査に誠実に協力する姿勢であること、身元が確かであり逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを説明し、在宅での捜査が継続されるよう働きかけました。あわせて、取調べに際しての注意点や供述の仕方についてご依頼者の方に丁寧に助言しました。
次に、被害者の方との示談交渉に着手しました。性犯罪の事案では、被害者の方が加害者側と直接接触することを望まれないのが通常であり、加害者本人が連絡先を知ることもできません。そこで、検察官を通じて、弁護人限りで連絡先を開示していただけるよう被害者の方の意向を確認してもらいました。被害者の方は当初、加害者側と話をすることに強い抵抗を示されていましたが、弁護人が間に入り、ご依頼者の方の謝罪の意思と反省の状況を誠意をもってお伝えするとともに、示談はあくまで被害者の方のお気持ちを最優先に進めるものであることを説明しました。
その後、ご依頼者の方が自ら書いた謝罪文をお渡しし、二度と被害者の方に接触しないこと、同種の行為を繰り返さないための具体的な取組みとして専門機関でのカウンセリングを受けていること等を丁寧にご説明しました。示談金の金額についても、被害者の方が受けられた精神的苦痛に見合うものとなるよう、ご依頼者の方と協議のうえで真摯に検討しました。
複数回にわたるやりとりを経て、被害者の方から示談に応じていただけるとのお返事をいただき、示談書を取り交わしました。示談書には、示談金の支払い、今後一切接触しないこと、被害者の方がご依頼者の方の処罰を望まない旨の条項を盛り込みました。
示談成立後、速やかに検察官に対し、示談書とともに、ご依頼者の方の反省状況、再犯防止に向けた取組み、ご家族による監督の状況等をまとめた意見書を提出し、不起訴処分が相当であることを主張しました。

本事例の結末
検察官は、被害者の方との示談が成立し、被害者の方が処罰を望んでいないこと、ご依頼者の方に前科前歴がなく深く反省していること、再犯防止のための具体的な取組みがなされていることなどを考慮し、ご依頼者の方を不起訴処分としました。
これにより、ご依頼者の方は前科がつくことなく、勤務先に事件が知られることもなく、これまでどおりの社会生活を続けることができました。

本事例に学ぶこと
不同意わいせつのような性犯罪の事案では、起訴されれば有罪となる可能性が極めて高く、前科がつくことによる社会生活への影響は甚大です。そのため、起訴されるか否かの判断がなされる前の段階で、いかに迅速かつ適切に対応できるかが結果を大きく左右します。
特に重要なのは、被害者の方との示談です。性犯罪の事案では、被害者の方が加害者側との接触を望まれないことが多く、本人やご家族が直接謝罪や示談を申し出ることは事実上不可能であるばかりか、かえって事態を悪化させるおそれもあります。弁護人が間に入ることで初めて、検察官を通じて連絡を取り、被害者の方のお気持ちに配慮しながら誠意を伝えることが可能になります。
また、示談は単に金銭を支払えば成立するものではありません。ご本人が真摯に反省し、再犯防止に向けて具体的に行動していることを示すことが、被害者の方の信頼を得るためにも、検察官の判断においても重要な意味を持ちます。
本事例は、事件の早い段階で弁護士に相談し、被害者の方への誠実な対応と再犯防止への取組みを両立させることで、不起訴という結果につながり得ることを示しています。ご自身やご家族が刑事事件の当事者となってしまった場合には、できる限り早くご相談いただくことをお勧めします。

弁護士 遠藤 吏恭