紛争の内容
本件は、少年事件における窃盗事件、具体的にはひったくり事件に関するものです。
ご依頼者の方はすでに別の非行事実により少年審判を終え、試験観察という保護観察処分を受けている最中でした。その少年審判の終了後に、過去の非行事実について警察の捜査が進み、逮捕されてしまったものです。
非行の内容が、複数の事件にわたること、共犯者が存在したこと、そして被害額が比較的大きかったことから、長期身柄拘束が予想される事案でした。
逮捕直後からご依頼をいただきましたが、これらの客観的な事実から、勾留という身柄拘束自体を阻止することは難しい状況にありました。したがって、弁護活動の主要な目標は、長期の身柄拘束、特に少年事件において長期化の懸念がある観護措置(鑑別所送致)を避けること、そして勾留期間を可能な限り短縮することに置かれました。

交渉・調停・訴訟等の経過
まず、身柄拘束の長期化を防ぐため、検察官に対して意見書を提出する活動を行いました。一般の刑事事件では最大で二十日間の勾留が認められることが多いですが、本件については、事案が簡明であること、そして弁護人として被害弁償に向けて最大限努力していること(実際にはこの段階で被害弁償は未達成でした)などを説得的に主張しました。
この意見書に基づき、検察官と協議を重ねた結果、幸いにも二十日間の勾留ではなく、十日間の勾留期間で捜査を終結させることができ、家庭裁判所へ送致されることとなりました。
次に、家庭裁判所への送致日程が判明した段階で、最大の目標であった観護措置の回避に向けて、裁判所へ意見書を提出しました。
この意見書では、本件の非行事実は試験観察中に起こした再非行ではない、あくまで過去の非行であり、試験観察に付されてから現在に至るまでのご依頼者の方の生活は着実に改善されていることを説得的に説明いたしました。
具体的には、事件発生時から家庭環境や生活環境が全く異なっており、少年が再スタートに向けて真摯に取り組んでいる状況を詳細に記述し、観護措置による長期の身柄拘束は、かえって立ち直りの妨げになる可能性が高いことを主張いたしました。

本事例の結末
意見書が、検察官への勾留期間短縮の働きかけ、および家庭裁判所への観護措置回避の働きかけの両方で功を奏しました。
結果として、検察段階では通常の二十日間ではなく十日間の勾留で家庭裁判所へ事件が送致されました。
さらに、家庭裁判所へ送致された際、裁判官に対して観護措置の必要性はないと判断していただくことができ、ご依頼者の方は鑑別所へ送致されることなく、すぐに一時帰宅が許可されました。
この結果、ご依頼者の方は長期の身柄拘束を受けることなく、試験観察という立ち直りの機会を継続して得ることができ、スムーズに社会復帰に向けた手続きへと移行することができました。

本事例に学ぶこと
弁護活動においては、事案の重大性や客観的な証拠の存在から、勾留自体の阻止が困難な場合であっても、長期的な目標を見据えた弁護活動を諦めてはならないことが学べます。
この事例では、勾留の阻止が難しければ、次に身柄拘束の期間短縮を、そして最も警戒すべき観護措置の回避という、段階的かつ具体的な目標を設定し、それを達成するために全力を尽くすことが重要であると示されています。
また、少年事件特有の観護措置回避の活動においては、単に再非行の可能性が低いと主張するだけでなく、非行を行った時点と現在とで環境がどのように改善されたのかを、裁判所に対して具体的かつ説得的に示すことが非常に大切であるとわかります。本件のように、すでに試験観察に付されているという事実は、過去の非行であっても鑑別所送致の判断に影響を及ぼしがちですが、過去の非行であるという点と、現在の生活環境の安定を関連づけて説明することで、少年の立ち直りに身柄拘束が不要であることを裁判所に理解していただける可能性が高まります。
さらに、検察官や裁判所といったそれぞれの関門において、その関門特有の判断基準を理解し、それに合わせた意見書を作成し提出することが、短期間で最良の結果を導くために不可欠です。例えば、検察段階では事案の簡明さや被害回復に向けた姿勢を強調し、家庭裁判所段階では少年の現在の環境と更生への意欲という、それぞれの判断に必要な要素に焦点を当てて主張を展開する戦略的なアプローチが、極めて効果的であると学ぶことができます。
最後に、弁護活動を早期に開始することで、事実関係や環境の改善状況を漏れなく把握し、それらを証拠として意見書に反映させる時間的な余裕を確保することができました。ご依頼を逮捕直後から受けることにより、勾留期間の短縮という検察段階での活動と、観護措置回避という裁判所段階での活動を、連携させながらシームレスに進めることができ、結果としてご依頼者の方の社会復帰の機会を最大限に守り抜くことができたと示唆されます。

弁護士 遠藤 吏恭