⑴ 強制わいせつは、
ア 13歳以上の者に対し、
イ 暴行または脅迫を用いて、
ウ わいせつな行為をした、
もしくは、
ア 13未満の者に対し、
イ わいせつな行為をした、場合に成立します。

(ア)「暴行」とは、身体に向けられた不法な有形力の行使(殴る、掴む等)を指します。暴行の程度は被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度でよいとされ、暴行の強度により犯罪の成否が左右されることは少ないといえます。

(イ)「脅迫」とは、害悪の告知(他人を怖がらせる発言)を指します。脅迫の程度は上記暴行の程度と同程度で足りると考えられています。

 

13歳以上の被害者に対しては、「暴行」や「脅迫」が犯罪成立の要件とされている関係で、13歳以上の被害者が真意に基づいて承諾している場合や13歳以上の被害者に対して詐欺的な手段を用いてわいせつな行為をした場合には強制わいせつは成立しないということになります(なお、後者については準強制わいせつが成立する余地があります)。

 

(ウ)「わいせつな行為」とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、一般人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうとされています。

具体的には、キスをする、胸をまさぐる、陰部に手を触れる、手指で弄ぶ、自らの陰部を押し付ける等の行為がわいせつな行為に該当するといわれています。

 

この点に関連して、強制わいせつが成立するためには加害者に性的意図が必要かという問題があります。

従前、裁判所は、加害者が被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとしたという事案について、「強制わいせつが成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判断し、強制わいせつが成立するためには性的意図が必要であるとの立場を取っていました。

しかし、近年、裁判所は、性的被害に関する犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方が変化していることを踏まえ、

「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって、そのような個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし、そのような場合があるとしても、故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でな」い

と判断し、強制わいせつの成立について、行為者に性的意図が存在することが必ずしも要求されるものではないとの立場を取りました。

以上のように裁判所が立場を変更したことにより、今後、わいせつ行為にあたる行為をしたことは確かだが、性的意図はなかったという主張は受け入れてもらえないと考えた方がよいかもしれません。

 

(エ)被害者の年齢について、13歳以上の男女が被害者として定義されている場合、被害者が13歳以上であると加害者が認識していることは強制わいせつが成立するための主観的要件にはなりません。他方、13歳未満の男女が被害者として定義されている場合、被害者が13歳未満であると加害者が認識していることが強制わいせつが成立するための主観的要件となります。

そこから、13歳未満の男女に対して、13歳以上と誤信して暴行等を用いることなくわいせつな行為をした場合、強制わいせつは成立しないということになります。

※ 強制わいせつ罪は、被害者からの訴えがなければ起訴できない親告罪という類型に属していましたが、平成29年6月の法改正により親告罪ではなくなったため、今後は被害者からの訴えがなくても起訴される可能性があります。

⑵ 強制わいせつに関する罰則は次のとおりです。
6月以上10年以下の懲役

⑶ 強制わいせつのバリエーション
ア 薬や酒等の影響により抵抗ができない被害者に対して、その状況を利用してわいせつ行為をした場合には、準強制わいせつ罪が成立します(罰則は強制わいせつと同様です)。
イ 親等の監護者が、18歳未満の者に対して、監護者であることの影響力を利用して、わいせつ行為をした場合には、監護者わいせつ罪が成立します(平成29年6月の法改正により新設されました。罰則は強制わいせつと同様です)。
ウ 強制わいせつを行う中で被害者に怪我をさせたり、死亡させてしまった場合には、強制わいせつ致死傷罪が成立します(罰則は無期または3年以上の懲役であり、裁判員裁判対象事件となります)。

 

痴漢事件・盗撮事件・強制わいせつ事件の弁護活動のポイント
⑴ 逮捕・勾留段階
痴漢行為、盗撮行為、強制わいせつ行為を行った場合、証拠隠滅(被害者を脅して口止めをする、画像データを消去する等)や逃亡のおそれが高いとして、逮捕・勾留されてしまうケースが多くなっています。
勾留を阻止するためには、逮捕直後から、証拠隠滅や逃亡のおそれがないこと、勾留されることにより被る不利益が甚大であることを、検察官や裁判官に積極的に訴えていく必要があります。
⑵ その後
ア 示談交渉
痴漢行為等においては被害者の処罰感情というものが重視される傾向があり、被害者との示談が成立するかは、検察官の起訴・不起訴の判断及び裁判官の量刑判断(執行猶予の有無を含む)に大きな影響を及ぼします。
ただ、被害者の大半は加害者とは話もしたくないという感情を抱いていますので、まずは話を聞いてもらうというところからスタートし、徐々に示談条件を詰めていくということになります。
※ 上記の考え方は強制わいせつが非親告罪となった現状においても妥当するものと思われます。
イ 再犯防止
痴漢行為等の性犯罪は再犯率が高く、検察官や裁判官が再犯の可能性が高いと判断した場合には厳しい処分となることが予想されますので、再犯の可能性がないということを示す必要があります。
そのためには、犯行の原因を分析した反省文を作成する、家族等に監督をしてもらう、専門家のカウンセリングを受ける、犯行現場から物理的に遠ざかる等の手段を検討する必要があります。