振り込め詐欺などの特殊詐欺で、お金を受け取る役割の人を受け子と言います。
お金を受け取るアルバイトだと誘われ、受け子を始める人がいますが、後に詐欺罪に問われる可能性があります。

受け子が、詐欺罪の刑事責任を問われる場面で、問題となるものとして、

①受け子に詐欺をするという故意があるか(犯罪の成否にかかわる問題です。)

②被害者が途中で詐欺に気づき、警察と協力して、お金を受け取りに来た受け子を捕まえようとした場合に、受け子の詐欺罪が成立するか(なお、この警察との協力作戦は、だまされたふり作戦と呼ばれています。)

③受け子であっても、重い刑事責任を負わせるべきか

という問題があります。

この点、①については、もしかしたら詐欺かもしれないと思っているだけでも詐欺罪の故意があると認定されてしまいます(これを未必の故意と言います)。
受け子のアルバイトをしていた少年の故意が争われたある裁判例では、故意を認定する根拠として、
・お金を運ぶアルバイトなどというものは、その違法性を疑うべきである。
・お金を運ぶと3万円がもらえるというアルバイトは、不相当に高額な報酬を得るものであるから、その仕事が詐欺であることを疑ってしかるべきである。
・上席の担当者から、お金を受け取りに行くときには、スーツを着て身分を偽るよう指示されたのであれば、お金を受け取りに行く相手を騙すものであることは容易に想像できる。
・受け取りの際に周囲に警戒しろという指示を受けていたのであれば、その仕事の違法性を推測させる。
・被害者に対し、「○○さんのお母様ですか」と聞いて、その○○という人物から電話がかかっていると言って携帯電話を渡すよう、指示されていたとすれば、その指示内容は典型的なオレオレ詐欺の手段であるから、その指示を受けた時点で指示された行為がオレオレ詐欺であると認識できたもの、と推認できる。
・お金を受け取った後に、通行人に声を掛けられ、被害者が通行人に対して400万円を少年に渡したと話したのを聞いて、少年が逃げ出したのは、少年に詐欺の故意があったことを裏付ける事実である。
等の事情を挙げて、少年の故意を認定しました。

次に、②だまされたふり作戦が実行された場合に、受け子に詐欺罪が成立するかという問題について説明します。このことは、被害者が詐欺に気づいてだまされたふり作戦が開始された後に、ある人物が受け子の仕事に加わった場合に問題となります。すなわち、作戦が開始されて詐欺は成功しないことが確実であるのに、その後の時点で、受け子の仕事にかかわった人物に詐欺罪の責任を負わせて良いか、ということを問題とします。

この問題については、昨年の12月11日に最高裁判所が、だまされたふり作戦が開始された後に受け子の仕事に加わった人物についても、詐欺罪の責任を負うという判断を下しました。この決定が出たことにより、今後も捜査機関が、だまされたふり作戦を実行して受け子を摘発し、刑事責任を追及するだろうと言われています。

最後に、③受け子であっても重い刑事責任を負うのかという問題ですが、特殊詐欺の受け子は、特殊詐欺という計画的かつ組織的な犯罪にかかわるものであり、現金を受け取るという詐欺に不可欠な、重要な役割を担っていますので、その責任は軽いものではありません。
ただし、詐欺が未遂で終わったか、未遂で終わらなかったとしても現金が被害者のもとに返還されたか、前科はあるか、奪おうとした金額は同種事犯に比べて高額であるか否か、等の事情によっては、直ちに刑務所に行くことを免れる執行猶予の処分が下されるケースもあるようです。