「さいたま地裁は,7月27日、覚せい剤取締法違反(所持・使用)の罪に問われた埼玉県春日部市の男性会社員(45)に無罪(求刑・懲役4年)の判決を言い渡した。」との報道がなされています。
もともとは、警察官による所持品検査がきっかけで発覚したのですが、さいたま地裁は違法に収集された証拠だとして証拠能力を否定したとのことです。
また、判決によると、警察官は職務質問で男性に覚醒剤事件の前歴があることを把握し、男性がトイレに行きたいと訴えたが立ちふさがるなどして所持品検査を求め、このため男性はトイレではない場所で排便してしまい、その後、持っていた覚醒剤を提出した という事実関係だそうです。
裁判官は、「所持品検査の必要性も緊急性もさほど高くなく、公衆の面前で排便させることも辞さない行為で、令状主義の精神を没却する違法なもの。」として捜査を非難しました。

ところで、なぜ覚醒剤を摂取した証拠があるのに、無罪になったのでしょうか?
ポイントは、「証拠能力を否定」という部分です。

捜査(職務質問や所持品検査)は、どのようなこともしていいわけではありません。
例えば、所持品検査については、最高裁判決において、次のように判示されています。

「職務質問に付随して行われる所持品検査は所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容される場合がある。」(最判昭和53年6月20日)

これを逸脱すれば、「違法な捜査」と判断されることがあります。

そして、違法な捜査によって集められた証拠は、「違法収集証拠排除法則」によって、裁判で証拠として使えないことがあるのです。これは、捜査機関の違法な捜査を制限するための趣旨が含まれています。

「憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるべきである」

 

今回は、このような仕組みで、覚醒剤に関する証拠が排除され、その結果、証拠が無く、無罪となったケースでした。