紛争の内容
ご依頼者の方が自動車を運転中、歩行者と接触する事故を起こしてしまいました。
相手方の歩行者が転倒した際、運悪く縁石に打ち所悪く衝突してしまったことで、全治6ヶ月という重傷を負わせる結果となりました。 事故の事実および「歩行者を確認できていなかった」という過失自体については争いようがなく、重傷という結果を重く見た検察官により、略式命令ではなく公判請求(正式な裁判)が行われるに至りました。

交渉・調停・訴訟等の経過
裁判では、事実関係を素直に認めた上で、刑を軽くするための「情状弁護」に注力いたしました。
まず、過失運転致傷の事案で最も重視される「被害弁償」については、任意保険会社を通じて和解交渉が進行中であることを詳細な報告書にまとめ、証拠として提出いたしました。
その際、対人賠償が無制限の保険に加入しており、将来的に損害の全額が確実に補填される見込みであることを裁判所に強く印象付けました。 また、法廷ではご家族に情状証人として出廷していただき、今後の監督体制が整っていることを明らかにしました。
あわせて、事故当時の状況が「徐行に近い低速走行であったこと」や「被害者の負傷が拡大したのは縁石への衝突という不運な側面があったこと」など、検察官側の証拠だけでは見えてこない有利な事情を細かく主張いたしました。

本事例の結末
検察官は厳しい実刑(拘禁刑)を求刑しましたが、裁判所は弁護側の主張を認め、刑期を短縮した上で執行猶予付きの判決を言い渡しました。
事実関係を認めつつも、背景にある事情や誠実な賠償の姿勢を丁寧に伝えたことが、大幅に有利な判決につながりました。

本事例に学ぶこと
本事例から学ぶべき最も重要な点は、過失を認める刑事裁判においては、単に反省の意を示すだけでなく、客観的な状況や今後の見通しをいかに具体的に裁判所へ提示できるかという点にあります。
特に人身事故においては、任意保険の加入状況や交渉の進捗を正確に報告することで、被害者への被害回復が確実に行われることを法的に担保し、裁判官の不安を払拭することが不可欠です。
また、事故の結果が重大であっても、そのプロセスにおける速度遵守や前科の有無、さらには家族による監督といった個別の事情を丁寧に積み上げることで、検察側の厳しい求刑を覆し、社会内での更生を許される執行猶予の獲得が可能になります。法律の専門家である弁護士が、記録に現れにくい有利な事情を一つひとつ拾い上げ、主張として構成することの重要性が再確認された事案といえます。

弁護士 遠藤 吏恭