
盗撮や痴漢といった性犯罪は、他の犯罪と比較しても「依存性」や「常習性」が極めて高いという特徴があります。一度の逮捕で事態が収束するとは限らず、警察に押収されたスマートフォンやパソコンの解析によって、過去の膨大な余罪が発覚し、再逮捕や実刑判決へと繋がってしまうケースが後を絶ちません。
現代の性犯罪弁護においては、単に目の前の事件を解決するだけでなく、デジタルデータの証拠能力に対する法的防御と、医療機関と連携した根本的な再犯防止策(環境調整)が、被告人の人生を守るための両輪となります。
本コラムでは、デジタルデバイス解析の脅威とその対策、そして治療を通じた社会復帰の道筋について、埼玉県大宮の弁護士が詳述します。
逮捕と同時に行われる「スマートフォン押収」の恐怖

盗撮事件において、スマートフォンは「犯行ツールそのもの」であり、痴漢事件においても「犯行前後の行動記録」や「性的嗜好の証拠」として、警察は必ずと言っていいほどデバイスを差し押さえます。
ここで多くの被疑者が直面するのが、「今回の件だけでなく、過去に撮った写真や動画も見つかってしまうのではないか」という恐怖です。
現代の警察のデジタル・フォレンジック(電子鑑識)技術は極めて高度です。たとえカメラロールから削除したデータであっても、ゴミ箱に残っているデータはもちろん、特殊な解析ソフトを用いることで、システムの奥底に残るキャッシュデータや断片化されたデータを復元できる可能性があります。
ここで、逮捕後の基本的な流れを確認しておきましょう。
Q:逮捕されるとどうなるのですか?
A: 逮捕されると通常は、警察署へ連れていかれたあとに、48時間以内に事件を検察庁へもっていかれます。軽微な事件などの場合には、警察でそのまま身柄が解放されることもあります(微罪処分)。検察庁へ事件が持っていかれた場合、そこから24時間以内に検察庁が身柄を勾留するかどうかを判断します。
盗撮事件でスマートフォンが押収された場合、この「48時間から72時間」の間に、警察は集中的にデバイスの解析を行います。
パスコードの開示を求められることもありますが、これには拒否権がある一方で、開示しないことが「証拠隠滅の恐れ」とみなされ、身柄拘束が長期化する要因となることもあります。
余罪発覚と「再逮捕・追起訴」の法的構造

解析の結果、今回の事件とは別の被害者の動画や、過去の犯行記録が発見された場合、警察は「余罪」として捜査を拡大します。実務上、特に悪質なものや被害者が特定できるものについては、最初の事件で勾留されている期間の終盤、あるいは処分が決まる直前に、別の事件として「再逮捕」が行われることがあります。
Q:勾留とはなんですか?
A:勾留は、捜査をするにあたって例えば証拠を隠したり、逃げたりする可能性がある場合に、検察官が身柄を拘束して、その間に事件を調べて、起訴するかどうかの判断をするという制度です。勾留は10日間を上限として決定がされ、追加でもう10日間を上限として、最大で20日間身柄を拘束することができます。実際には、多くの事件でこうした20日間の勾留がされているのが実情です。
再逮捕が繰り返されると、身柄拘束期間は40日、60日と延びていき、精神的な消耗は計り知れません。また、複数の余罪がすべて起訴(追起訴)されれば、「併合罪」として法定刑が加重され、初犯であっても執行猶予がつかない「実刑」のリスクが急激に高まります。
弁護士の役割は、解析されるデータの範囲について法的な妥当性をチェックし、不当に広範な捜査が行われないよう監視することです。また、余罪が発覚した場合には、それらを別々に立件させるのではなく、一括して処理(包括一罪的な扱いを求めるなど)することで、被告人の不利益を最小限に抑える交渉を行います。
デジタルデータの証拠能力とプライバシーの境界線

警察がスマートフォンの中身を調べるには、原則として「差押捜索許可状」が必要です。
しかし、逮捕の現場では「逮捕に伴う無令状捜索」としてデバイスが確保されることが一般的です。
ここで争点となるのは、令状に記載された「差し押さえるべき物」の範囲を逸脱した解析が行われていないかという点です。例えば、今回の盗撮事件の証拠を探すために、事件とは全く無関係な数年前のプライベートな日記や、SNSのDMのやり取りを隅々まで精査することは、プライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
デジタルデータはコピーが容易であり、一度警察のサーバーに吸い上げられてしまえば、何がどこまで見られたのかを被疑者側が把握するのは困難です。
なお、万が一違法な手続きで収集されたデータについては、裁判において「違法収集証拠」として排除を申し立てることが可能です。
医療機関による「認知行動療法」の具体例と重要性

盗撮や痴漢を繰り返してしまう背景には、単なる「性格の問題」ではなく、「性的嗜好障害」や「衝動制御障害」といった医学的な問題が潜んでいることが少なくありません。
裁判官は、被告人がどれほど口先で「反省しています」と言っても、それが依存症的な問題である場合、再犯の可能性を拭えません。
そこで極めて重要になるのが、専門医療機関による「認知行動療法(CBT)」への着手です。これは、自分の犯行に至るまでの「思考のクセ(認知)」と「行動のパターン」を客観的に分析し、修正していく治療法です。
認知行動療法の具体的なステップ
トリガーの特定
どのような状況(仕事のストレス、特定の場所、時間帯など)で犯行衝動が起きるのかを書き出す。
認知的再構成
「バレなければいい」「相手も嫌がっていないはずだ」といった歪んだ認知を、「これは重大な性暴力である」「被害者の人生を破壊する行為だ」という正しい認識に置き換える。
代替行動の確立
衝動が起きたときに、その場を離れる、信頼できる人に電話する、深呼吸をするといった、具体的な回避行動を訓練する。
弁護士は、被告人がこうした治療を開始したことを証明するために、主治医の診断書や「治療計画書」を証拠として提出することが考えられます。また、カウンセリングの継続を誓約させ、実際に通院している実績を積み上げることで、「更生の可能性」を客観的に裏付けます。
示談交渉がもたらす決定的効果

性犯罪における身柄解放と不起訴獲得のための最大の武器は、やはり被害者との「示談」です。
Q:不起訴とはなんですか?
A:事件が警察により発覚すると捜査が開始されますが、捜査の結果、有罪にすべき証拠がそろっていないと判断されたり、有罪にすべき証拠はそろっているが、裁判をするために起訴する事件ではないと判断された場合に、その事件について捜査を終了する判断をします。これを不起訴と言います。不起訴となると前科はつきません。
盗撮事件において、被害者が特定できている場合、弁護士は迅速にコンタクトを取り、謝罪と賠償の意志を伝えます。示談が成立し、被害者から「宥恕(許すこと)」が得られれば、検察官は「再犯防止策が講じられており、被害者の処罰感情も和らいでいる」と判断し、不起訴処分を下す可能性が非常に高くなります。
余罪についても同様です。解析によって新たな被害者が判明した場合、その一人ひとりと誠実に向き合い、示談を重ねることで、再逮捕の連鎖を断ち切ることができます。
「環境調整」と家族による監督体制
再犯防止において、医療的アプローチと並んで重視されるのが「物理的な環境の改善」です。
デバイスの制限
スマートフォンをカメラ機能のない機種に変更する、あるいはインターネット利用を制限するフィルタリングを導入する。
居住環境の見直し
犯行現場となった通勤経路を変更する、あるいは引っ越しを行う。
家族の協力親族が同居し、外出時の行動を把握するなど、24時間の監督体制を構築する。
弁護士は、これらの対策を「身柄身元引受書」や「更生計画書」としてまとめ、裁判所に提出します。
Q:勾留されたらもう家には帰れないのですか?
A:検察官から勾留請求がされ、裁判官が勾留決定をすると、その決定があった期間は家に帰ることができません。しかし、勾留決定に理由がないという不服申し立てを行うことで、勾留決定が覆され、身柄が解放されることもあります。これを準抗告と言います。
準抗告において、「専門病院への即時入院」や「家族による厳格なスマホ管理」を釈放の条件として提示することは、裁判官の判断を「釈放」へと傾かせる強力な材料となります。
「デジタルタトゥー」と社会的更生の課題

一度逮捕されると、実名報道がなされなくとも、ネット上の掲示板やSNSで情報が拡散されるリスクがあります。性犯罪の前科や逮捕歴が残ることは、将来の就職や結婚に甚大な悪影響を及ぼします。
弁護士は、早期に「不起訴」を勝ち取ることで、公的な「前科」がつくのを防ぐだけでなく、必要に応じて報道機関への働きかけや、不当なネット記事の削除要請なども検討します。
社会的信頼を失った状態から更生を始めるのは容易ではありません。しかし、医療、家族、そして弁護士が三位一体となってサポート体制を構築することで、二度と過ちを繰り返さない「新しい生活」を築くことは可能です。
結論 性犯罪弁護における「攻め」と「守り」

盗撮・痴漢事件における弁護活動は、警察のデジタル捜査に対する「法的防御(守り)」と、依存症治療を通じた「再犯防止策の構築(攻め)」の同時並行です。
スマートフォンの中身に怯え、孤独に取調べを耐え抜くのは限界があります。
もし、あなたやあなたの大切な人が、性的な衝動を抑えられずに事件を起こしてしまったのであれば、あるいは余罪の発覚に震えているのであれば、一刻も早く専門の弁護士にご相談ください。
Q:逮捕された人のことを容疑者というのですか?
A: 逮捕された人のことをニュースなどでは容疑者と呼びますが、法的には逮捕されて起訴されるまでの捜査に対象とされている人は疑いがかけられている人として「被疑者」と呼びます。
私たちは、被疑者となったあなたの権利を最後まで守り抜き、同時に「二度と事件を起こさない自分」に変わるための具体的な道筋を共に歩みます。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。







