紛争の内容
ご依頼者の方が、家庭内での喧嘩の際、家族に対し包丁を突き出し刺そうとしたという殺人未遂の被疑事実で逮捕・捜査された事案です。
これは裁判員裁判対象の非常に重い事件であり、ご依頼者の方は殺意を否認し、実際には脅しの意図で凶器を突き出したに過ぎず、殺人未遂罪は成立しないと主張されていました。

交渉・調停・訴訟等の経過
本件は殺意という主観面が争点となるため、捜査段階での取り調べ対応が極めて重要と判断しました。
誤った対応による殺意の認定と殺人未遂での起訴を避けるため、弁護人として取り調べ対応の徹底的な協議、相談、アドバイスを実施しました。
もっとも、包丁を突き付けたという客観的事実は認めていたため、その点について被害者であるご家族への説明と謝罪を行いました。
これらの弁護活動を通じて、捜査機関に対し、行為の殺意の欠如と脅しの意図に留まるという点を主張・立証しました。

本事例の結末
結果として、当初の殺人未遂罪での起訴は避けられ、脅迫罪が成立するという判断に落ち着きました。
これにより、事件は裁判員裁判の対象外となり、身柄拘束も比較的短期間で解放されました。また、弁護人がご家族との間の話し合いの調整に入ったことで、今後の家庭環境の調整にも繋がりました。

本事例に学ぶこと
刑事事件において、殺意などの主観的な要素が成立要件となる罪名で捜査がされている場合、被疑者の供述内容が事件の結末に決定的な影響を及ぼします。
誤った対応をすると、意図しなかった殺意が認定されて重い罪で起訴される危険性があるため、弁護士と連携し、取り調べに対する方針を徹底的に協議することが必須となります。
また、本件のように客観的な行為が否定できない場合でも、弁護活動によって被害者への真摯な謝罪や示談交渉を進めることで、裁判官や検察官の心証に良い影響を与え、最終的な罪名や処分を大きく左右することがあります。
さらに、家族間のトラブルなど複雑な背景がある事件では、刑事手続きの早期終了にとどまらず、弁護人が間に入って今後の生活環境の調整や関係修復を図ることも、被疑者・被害者双方の社会復帰のために重要な役割を果たします。

弁護士 遠藤 吏恭