紛争の内容
本事例は、ご依頼者の方が不同意わいせつ事件の被疑者として捜査を受けた事案です。
現行犯またはそれに準ずる状況で警察の捜査対象となり、事実関係を認めている状況でした。
不同意わいせつ罪は、近年法改正により罰金刑の規定がなくなり、起訴された場合には非常に重い刑罰が科される可能性が高い罪であり、前科を避けることがご依頼者の方にとって最大の課題でした。
ご依頼者の方は、今後の社会生活への影響を深く懸念されており、早期に事件を解決し、不起訴処分を得ることを強く望んでおられました。

交渉・調停・訴訟等の経過
ご依頼者の方が事実を認めている事案であったため、弁護活動の重点は被害者の方との示談交渉に置かれました。不同意わいせつ事件における示談交渉は、被害者の方の心情を考慮すると、特に難航する傾向があります。
まず被害者の方に対して、ご依頼者の方の深い反省と謝罪の意を丁重にお伝えいたしました。また、示談金の提示にあたっては、単に金額を提示するだけでなく、類似事件における裁判例に基づいた相場観を丁寧に説明し、示談が成立しなかった場合に民事裁判に移行する可能性とその際の法的な見通しについても詳細にご説明いたしました。
この相場観と法的根拠に基づく説得を通じて、金銭的な補償だけでなく、ご依頼者の方の真摯な謝罪の気持ちを伝えることに注力いたしました。
結果として、何度かの交渉を経て、最終的に被害者の方との間で示談を成立させることができました。示談成立後、検察官に対し、示談書とご依頼者の方の反省文、再発防止策を記載した意見書を提出し、不起訴処分を求める活動を行いました。

本事例の結末
示談が成立し、被害者の方が処罰を望まない旨の意思表示をされたことが検察官に大きく評価されました。
その結果、検察官はご依頼者の方を起訴しない「不起訴処分」を決定いたしました。
これにより、ご依頼者の方は刑事罰を受けることなく、また前科がつくことを回避し、従来の社会生活を継続することが可能となりました。ご依頼者の方にとっては、極めて深刻な事態を最良の形で解決できた事例となりました。

本事例に学ぶこと
本事例は、刑事事件、特に不同意わいせつのように罰則が重く設定されている犯罪において、事案発生直後からの迅速かつ緻密な弁護活動が決定的な重要性を持つことを示しております。
ご依頼者の方が事実を認めている場合、いかに被害者の方との間で円満な示談を成立させるかが、起訴・不起訴の分かれ目となります。
示談交渉を成功させるためには、単に高額な示談金を提示するのではなく、被害者の方の心情に寄り添った真摯な謝罪を行うこと、そして提示する金額が法的な根拠に基づいた適切な相場観であることを、被害者側代理人や検察官に明確に伝える交渉術が不可欠です。
相場観や民事裁判になった場合の見通しを丁寧に説明し、法的安定性を担保することで、初めて被害者の方にも納得していただける道が開けます。この事例は、重罪化が進む性犯罪においても、初期段階での示談成立を通じた前科回避、すなわちご依頼者の方の社会復帰と今後の人生を守り抜くことの重要性を強く示唆するものと考えられます。

弁護士 遠藤 吏恭