紛争の内容
ご依頼者が、生活保護を受給する際、実際には収入があったにもかかわらず「働いていない」と虚偽の申請を行い、長期間にわたって生活保護費を不正に受給していた詐欺事件です。詐欺罪は罰金刑がなく、初犯であっても実刑となる可能性が高い重い犯罪であり、本件も実刑判決があり得る状況でした。

交渉・調停・訴訟等の経過
実刑判決を回避し、執行猶予付き判決を獲得するために、以下の弁護活動を集中的に行いました。

①被害弁償の困難性の克服と返済計画の策定
ご依頼者にまとまった被害弁償金がなかったため、分割での返済計画を立て、被害者である役所と協議を進め、その了解を得ることができました。

②就労環境の確保と維持
分割返済の履行には安定した収入源が不可欠であるため、ご依頼者の就業先に対し、現在の状況を説明し、仕事を継続できるように協力をお願いすることで、今後の就労先の確保を明確にしました。

③証拠の提出
これらの被害弁償計画と就労継続の確約に関する経過を、証拠書類として裁判所に提出し、今後が安定していることなどを公判において強調しました。

本事例の結末
上記の活動の結果、裁判所に対し、ご依頼者の反省の情、被害回復に向けた具体的な努力と計画、そして社会内での更生環境が整っていることを十分に示せたため、無事に全部執行猶予の判決を得ることができました。
ご依頼者は身柄を拘束されることなく、無事に社会生活に戻ることができました。

本事例に学ぶこと
詐欺罪のような財産犯は、刑罰の性質上、被害金額の弁償が極めて重要であり、実刑を回避するための最重要課題となりますが、本事例のようにご依頼者に資力がない場合でも、弁護士と協議し、分割による確実な弁済計画を策定し、被害者の了解を得ることで、実刑回避の可能性を高めることができます。
さらに、被害回復を確実にするためにも、安定した就労先を確保し、具体的な更生環境が整っていることを客観的な証拠として裁判所に示すことが執行猶予を獲得するための重要な鍵となります。
このように、金銭の弁償と生活環境の整備を両輪で進めることが、重い財産犯事件において依頼者を社会へ復帰させるための最も有効な弁護戦略となります。

弁護士 遠藤 吏恭